テーマ: 演歌・流行歌 / 鈴木 啓之

「山口百恵は菩薩である」は やはり本当だった!

2011年3月10日

山口百恵という歌手の本当の凄さは、実はごく最近になって漸く気づかされた。久しぶりに過去のVTRなどを見る機会を得て、歌手としても女性としても非常に深いところにあるであろう彼女の魅力がやっと理解出来るようになった気がする。これは不覚にも20~30代の時には解らなかった感覚で、歳をとるのもまんざら悪くないと思った。そう思って昔読んだ平岡正明氏の著書「山口百恵は菩薩である」を読み返してみたら、以前は読み取れなかった共感出来る部分があまりに多くて、目からウロコ状態。正しく名著であった。自分が小学生の頃、中三トリオはさほど騒がれていなかった。少なくとも自分の周りでは。桜田淳子がイイといい輩はたまにいたけれども、正面切って百恵ちゃんが好きという友達はいなかったと記憶している。彼女を支持していたのは自分達よりももっと大人の世代だったのかもしれない。

1973年5月、CBS・ソニーからレコードデビューした際のキャッチフレーズは<大きなソニー、大きな新人>。“人にめざめる14才"というサブタイトルがつけられたデビュー曲「としごろ」のセールスが今ひとつだったために、次の「青い果実」からはいわゆる<青い性典シリーズ>に路線変更される。今見てもかなりキワドイ歌詞で、70年代のティーン歌手にこれを歌わせるのは冒険であった筈だし、本人もかなりの抵抗があったと思う。しかし、「禁じられた遊び」「春風のいたずら」に続く5枚目のシングル「ひと夏の経験」が大ヒットするに至り、見事作戦成功と相成った。ここまではすべて、作詞・千家和也、作曲・都倉俊一のコンビによる作品で、千家の詞は突き抜けている。他にも斬新な作品が多い氏の仕事はもっと評価されて然るべき。都倉は彼女がデビューするきっかけとなった日本テレビのオーディション番組『スター誕生!』の審査員でもあり、彼女の曲に心血を注いだ。初の1位獲得曲は74年12月の「冬の色」。主演映画第1作『伊豆の踊子』が公開された時のことだった。

ターニングポイントはやはり76年の「横須賀ストーリー」であろう。それまでのいたいけな少女路線からキッパリと訣別した、阿木燿子&宇崎竜童夫妻の作詞・作曲によるこの作品のヒットで、歌手・山口百恵の真の黄金時代が到来し、以降も「秋桜」「プレイバックPart2」「いい日旅立ち」などヒットを連発して国民的な人気を得る。何故かレコード大賞グランプリなどの大きな賞には恵まれず、“無冠の女王"と呼ばれたが、ニューミュージック勢の活躍とともに、ピンク・レディー、沢田研二、山口百恵の全盛時代がたしかにあった。70年代の終わりの2~3年間、歌番組でいえば『ザ・ベストテン』が始まって人気を集め始めた頃のことである。ちなみにあえて彼女のベストソングを挙げるとすると「夢先案内人」になる。同じ様な雰囲気の『乙女座 宮」もいい。この辺りは周囲からも同意見をかなり多く聴くので、我々の世代の魂に何か訴えかけるものがあるのだろう。後に『スター誕生!』の決勝大会で中森明菜が歌ったのが「夢先案内人」であった。

歌についてもさることながら、ビジュアル面でも山口百恵はセンセーショナルな存在だった。デビュー盤のジャケットこそ立木義浩氏の撮影によるものだったが、山口百恵といえばやはり篠山紀信氏だろう。雑誌「GORO」などで見せた彼女はとても官能的でいい表情をしている。「激写」シリーズの発端となった彼女を“時代と寝た女"と称したのも氏であったと思う。オリジナル・アルバムでは最大のヒットとなった『曼珠沙華』のジャケット写真で見せている色香などは特筆ものである。乱暴な言い方をすれば、決してパーフェクトな美人ではないにも拘らず、とにかく美しいのだ。平岡氏の言葉を真似てしまって本当に恐縮だが、これはもう日本古来の伝統美である仏像の美しさに匹敵する。それはもう言葉を失うほど。なぜ当時は気づかなかったのだろうか。いや、子供には到底無理。

幸いなことに、『夜のヒットスタジオ』と『ザ・ベストテン』という2大歌番組に出演した際のVTRを集めたDVDが最近になって発売され、彼女の多くの歌唱シーンを見ることが出来る。そうなると、健気で危うい雰囲気を醸し出していたデビュー当時の彼女ももっと見たくなる欲求にかられてしまうが、それは残された映画で補うことが出来るだろう。『伊豆の踊子』(74)から最終作の『古都』(80)まで。東宝で主演した13作品の中の彼女は、フィルムならではの質感で、瑞々しい魅力を放っている。未ソフト化のためなかなか観られる機会は少ないが、『花の高2トリオ 初恋時代』という、淳子、昌子と共にトリオで主演している作品もある。また、レコードを出す直前、松竹で出演した真のデビュー作『としごろ』も押さえておきたい。森昌子、石川さゆり、山口百恵による、幻の<ホリプロ3人娘>の姿が記録されている貴重な映像なのである。女優・山口百恵にもぜひ着目を。

それにしても綺羅星の数ほど輝くスター歌手の中で、本当の意味で<歌姫>と呼べる存在はごく限られた数名のみと思う。それは今のところ、美空ひばりと山口百恵と松田聖子だけではなかろうか。ご意見・ご反論もあると思うが、ここは決して譲れないところ。故・平岡正明氏に成り代わって再度申し上げたい。「山口百恵は菩薩である」と。



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